雨の音が、窓ガラスを叩く。 五月らしい、しとしととした音だ。 教室は、いつもの放課後デイサービスとは少し違う静けさに包まれていた。 今日は梅雨入り前のまとまった雨。 外で元気に遊ぶ子供たちの姿は、窓の外の雨と共に消えていた。

一年生のAくんは、私の目の前に座り、黙々と折り紙に集中している。 自閉スペクトラム症の診断を受けている彼とは、理解力は高く、指示はきちんと理解してくれる。 しかし、言葉が足りない。 伝えたいことがうまく言葉にならない、もどかしさが彼の小さな眉間に刻まれているように見える。

「ねえ、Aくん。 あのね、折り鶴、きれいだね。 何羽できたの?」

声をかけると、彼は小さく頷き、折り鶴を数え始めた。 小さな指が、丁寧に折り鶴を数える。 五羽。 静かに、五羽と答えた。 言葉が少ない分、彼の集中力と繊細さは、折り鶴の美しさにそのまま表れているようだった。

今日は、折り紙だけでなく、彼の好きな電車の絵を描くことにした。 私が鉛筆で線を描くと、彼はそれを真似て、色鉛筆で鮮やかな電車を描き始めた。 最初はぎこちなかった筆致も、だんだん力強くなっていく。 彼の表情も、だんだん明るくなってきた。

「すごいね! かっこいい電車だね!」 褒めると、彼は照れくさそうに小さく笑った。 その笑顔は、雨の日の教室を、ほんの少しだけ明るく照らしてくれた。

しかし、午後になって、彼の様子が少し変わってきた。 さっきまでの集中力は薄れ、落ち着きがなくなってきた。 何か、伝えたいことがあるのだろうか? 彼の視線は、窓の外の雨に吸い込まれているようだった。

「Aくん、どうしたの? 何かあった?」

彼は言葉で答えることはできなかったが、私の手を握ってきた。 その小さな手は、冷たく、少し震えていた。 雨の音に、何か特別な意味を感じているのだろうか? それとも、何か違う不安を抱えているのだろうか?

私は、彼の気持ちを理解しようと、彼の手に優しく触れた。 言葉にならない彼の気持ちを、少しでも感じ取ろうと、彼の目を見つめた。 彼の心の中にある雨雲を、少しでも晴らしてあげたいと願った。 残りの時間、私は彼のそばに寄り添い、彼のペースで一緒に過ごした。 そして、彼の言葉にならない想いを、静かに受け止めた。 今日の支援は、言葉以上に、大切な何かを共有した時間になった。